マックスウエルの打ち立てた「電磁場の理論」は、粒子を基本物質と考 えるニュートン力学に対して、場を基本物質と考える革命的な着想によ って見い出されたものでした。ところで、そのような着想は一体どこか ら生まれたものなのでしょうか?マックスウエルは、その数学的な才能もさることながら、物理的な想像 力にも優れていました。実際、ファラデーの提案した電磁誘導の法則の 意味をすぐに理解し、それに数学的な表現を与えることができました。 マックスウエルの思考方法でとりわけ優れていたのは、アナロジー(類 推)を用いて思考を進めるということでした。1856年に出された「 自然におけるアナロジー」という論文では、そのような思考方法を公に しています。
方法は明解で、全く異なった物理学の問題の間に、数学的な相似性を見 つけ出すというものです。つまり、1つの理論構造を数学的な参照枠と して捉え直し、その適用範囲を可能なかぎり押し広げて自然現象の理解 に適用しようというもので、自然を「構造」として捉えようとする、あ る意味ではたいへん現代的なアプローチとなっています。
電磁場の理論の発見との関連でいうと、流体力学との形式的なアナロジ ーがキーポイントです。たとえば、磁力線と流線のアナロジーです。ま た、磁場と渦とのアナロジーから、電流と磁場の関係を導いています。 ここでは、現象の裏に横たわる数学的構造こそが、物理を理解するとき の本質を司っていることがわかります。
結局、マックスウエルその人のなかで、優れた数学的な才能と実際の自 然現象から決して遊離しない強固な現実感覚とがうまくバランスし、ま さに両者の絶妙なバランスによってこそ、この世紀の画期的な発見が導 かれたと言えるでしょう。ゆったりした自然のなかでたっぷり遊んで育 ったことや大好きな父の勧めで優れた科学サークルへ参加したことは、 そのような人格の形成に本質的な役割を果たしているように思われます。