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: 基本的性質 : 超伝導と遷移金属酸化物 : 超伝導と遷移金属酸化物   目次

はじめに

1911年,オランダのカマリン・オネス(Kamerlingh-Onnes)は水銀(Hg)の電気抵抗を測定していたところ,約4.2 [K]で抵抗が突然ゼロになることを発見した.この現象が超伝導である.図7.1は1913年のノーベル賞受賞講演で発表された実験データである.

金属に電場をかけると電子は加速されるが,イオンの熱振動や不純物・転位などの格子欠陥にぶつかって方向を変えるため,有限の電気抵抗が生じる.十分低温では格子欠陥による散乱が主として働き,そのため電気抵抗は温度によらない一定の値をもつ.こういう電気抵抗の原因である格子欠陥がなくなるわけではないのに,電気抵抗がゼロになったのであるから非常に不可解なことである.オネスの発見に刺激されて,世界各地の研究者が超伝導の研究に力を入れ始め,理論的,実験的にこの現象の解明に多くの努力が払われてきた.その結果,超伝導を示す物質は水銀だけでなく,多くの金属が同じ現象を示すことがわかった(図7.2).また半導体や半金属でも,高い圧力をかけたり薄膜にすると超伝導を示すことがわかった.

図 7.1: カマリン・オネスによる超伝導の発見
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図 7.2: 臨界温度上昇の歴史.TMTSF塩,BEDT-TTF塩は有機超伝導体である.
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超伝導現象はなぜ起こるかという解明は,1957年に発表されたバーディーン(Bardeen),クーパー(Cooper),シュリーファー(Schrieffer)の理論(BCS理論と呼ばれる)まで待たねばならなかった.BCS理論によってその本質が解明されるや,それまでは理解できなかった実験データが解析できるようになり,超伝導のいろいろな細かい性質も研究されるようになって,研究の質,量とも一段と飛躍した.超伝導体は電気抵抗がゼロであるから,電流を流しても電圧降下,つまりジュール熱の発生がなくエネルギーが損失しないから,実用できれば非常に有益である.以下では,超伝導体の一般的な特性を述べる.

Masashige Onoda 平成18年4月7日