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: 理論の本質 : 磁性の基本的理論と実験 : 強磁性と電子の軌道   目次

自発磁化の温度変化

キュリー温度以下では電子スピンは整列しているが,完璧に整列する温度は絶対零度である.言い換えれば,絶対零度ではスピンが全部上向きだったのに,温度が上がるにつれて下向きのスピンが増えてくる.それだけ全体としての自発磁化は弱くなる.スピンの向きが上下同数になる温度がキュリー温度で,ここで自発磁化は消失する.
図: $\displaystyle S = \frac{1}{2}$ジグザグ鎖系CdVO$_{3}$の磁気的性質:(a) 帯磁率$\chi $の温度依存性;(b) 相転移点$T_{\rm C}$近傍の帯磁率;(c) 自発磁化$\sigma $の温度依存性;(d) 5.1 [K]における磁化$M$の磁場依存性.
\includegraphics[width=120mm, clip]{CdVO3_sus.eps}

CdVO$_{3}$を例に2.9,自発磁化と温度との関係を図2.7に示そう.キュリー温度以上では,電子スピンの向きがバラバラになり,そのような状態の示す磁性が常磁性である.強磁性から常磁性に移る境目が,キュリー温度に当たるとみてよい.

鉄などの強磁性体に自発磁化があるならば,その辺にある普通の鉄棒でも,自然に磁石になっているはずなのにそうはなっていない.実は,上で説明した自発磁化は,以前に述べた一つのミニ磁石からの寄与に相当している.このミニ磁石は磁区と呼ばれる.強磁性体は磁区の集まったもので,しかも各軸のN・S極の方向はバラバラである.したがって強磁性体全体としては,磁石の働きはできない.外部から磁場が加えられてはじめて,各磁区の向きが磁場の方向に変わるのである.


Masashige Onoda 平成18年4月11日