電離して自由に運動する荷電粒子の集団は興味深い物理現象を示す。TonksとLangmui rはその複雑な振る舞いから、電離気体をプラズマ(plasma)と呼んだ。プラズマは常 温の世界ではほとんど見られないが、絶対温度で1000度のオーダーになると顔を出す 。例えばFaradayの言うように、蝋燭の火も一種のプラズマである。
プラズマを特徴づける最も重要なことは、電磁力の遠距離性から来る集団現象である 。Alfvenは宇宙プラズマの研究から電磁流体力学という一つの体形を作った。その後 多くの研究者がプラズマ物理学を発展させ、近年は熱核融合炉の実現を目指した基礎 研究だけでなく、新機能を持つ半導体等材料研究もプラズマの重要な分野の一つとし て位置づけられている。
1)タンデムミラー中の核融合プラズマ
当グループは、全国の大学におけるプラズマ研究の拠点の一つとして機能している 。写真はプラズマ研究センターに設置されている世界最大のタンデムミラー「ガンマ 10」である。
研究の主眼は、図1に示す磁場分布に加えて電位を図の実線の様に外から制御して形 成し、プラズマをいかにして効率よく閉じ込め、核融合プラズマとして必要とされる 高温高密度に出来るかである。ミラー磁場中のプラズマの安定性や加熱及び輸送の物 理機構を解明し、核融合プラズマを基礎づけることを目指している。
主な研究課題と最近のトピックスを以下に述べる。
(1)電位形成と閉じ込め
タンデムミラーでは電子サイクロトロン共鳴加熱と電位形成は不可分である。加熱用
のマイクロ波電場による電子の速度空間内の拡散及びミラー磁場中の輸送過程と電位
形成の関連が調べられている。形成された電位によるプラズマ閉じ込めの研究はもっ
とも主要なテーマである。図2は装置端部に流出するイオンの速度分布関数の測定例
であり、閉じ込め電位の形成による速度空間内の損失領域の変化が分かる。
(2)イオン温度の非等方性
ガンマ10では高周波によるイオン加熱(ICRH)が用いられる。ミラー磁場中でICRH
によりイオン加熱をすると、イオン温度の非等方が強くなり不安定波動が励起される
。図3は磁気プローブで検出されたこの不安定性による磁場揺動の周波数スペクトル
を示したものである。これはAIC(Alfven Ion Cyclotron)モードと呼ばれ、高温プ
ラズマで注目されているものである。
(3)理論及びシミュレーション解析
ミラー磁場中のプラズマの理論的研究も押し進められている。一例としてコンピュー
タ・シミュレーションによるAICモードの解析を示す。図4は不安定性により励起さ
れた波動が成長しながらプラズマ中を伝播する様子である。これからAICモードの励
起機構、イオン温度の緩和現象、プラズマの輸送への影響等が調べられている。
この他にも電位形成、MHD安定性、粒子や熱の輸送解析等も重要な研究テーマである。
(4)新しいプラズマ計測法
プラズマ中には他にもいろいろな不安定モードや、加熱のために外部励起された波動
が存在する。それらを調べる有力な方法として、最近注目されているマイクロ波反射
法の開発が進められている。
荷電交換反応により外に出てくる中性粒子の測定からイオン温度が得られる。プラズ マから放射される可視光や真空紫外線はプラズマ中の不純物の情報を持っている。さ らに電子の制動輻射X線の測定から電子温度、空間分布等の情報が得られる。図5は ピンホールカメラで撮影された極小磁場中の高温電子の出すX線の2次元像の一例で ある。
新しいプラズマの現象は新しい測定法の開発により見いだされる。そのために測定素 子の研究開発も行われている。
(5)熱核融合反応実験
最近ガンマ10では、ICRHによりイオン温度を1億度まで上げることに成功した。図
6は重水素を注入し、タンデムミラーで初めて熱核融合反応による中性子の発生を検
証したものである。
2)基礎プラズマ実験
エネルギーの高い粒子の集団であるプラズマを一カ所に閉じ込めることは、大きな自 由エネルギー状態を維持することを意味する。プラズマはこの自由エネルギーを開放 しようとする。これはプラズマを閉じ込める上では非常に厄介な問題であるが、プラ ズマ物理学の観点からは多様な研究課題を提供してくれる。
我々はプラズマ研究センターとは別に、実験室規模のミラー磁場装置を用いて異なっ た視点からの研究を進めている。実験とコンピュータ・シミュレーションを併用しな がら、主として非平衡プラズマ中の物理現象として、ミラー磁場に生成される非マッ クスウェルプラズマ中の不安定性、輸送現象、非線形現象やプラズマ中のカオス現象 、自己組織化などの研究を行っている。またコンピュータ・シミュレーションにより 国際協力の下で中性子源の設計研究と、ここで開発されたコードを用いた星の進化実 験のシミュレーションも進められている。
さらに、プラズマと固体表面との相互作用も重要なテーマとして取り上げられている。
3)超高温トカマクプラズマ
筑波大学は1994年度より日本原子力研究所との連携大学院を開始した。同じ茨城県内 の那珂研究所には世界最大のトカマク型閉じ込め装置JT-60がある(図8)。また東 海研究所には先進的なトカマク概念の研究開発を担う中型トカマクJFT-2Mがある。連 携大学院方式により、異なる磁場閉じ込め研究施設の間で研究領域を拡大し、新たな 学問領域の確立とより広い視野での研究者養成を目指している。
磁場閉じ込め核融合炉心に必要なプラズマの温度は2-4億度(20-40 keV)であり、 現在JT-60ではこの様なプラズマを日常的に生成し実験を進めている。
トカマクにおける核融合炉心プラズマ研究は、端的には磁場中の超高温プラズマの物 性研究といえる。現在進めている主な実験・理論の研究テーマは以下の通りである。 1)超高温プラズマのエネルギー閉じ込め・輸送の物理、2)高温プラズマの磁気流 体安定性の向上、3)定常運転の開発(電流駆動、プラズマ・壁相互作用)、4)核 融合反応で生じるMeV級の高エネルギー荷電粒子のプラズマ中での挙動などである。 図9は最近のJT-60で得られた代表的なデータの一つで、パラメターの制御によりプ ラズマ周辺部に輸送障壁が形成され、イオン温度が大きく上昇することを示す。この 様な輸送障壁は装置によらず形成され、 その形成機構の解明は重要な物理的課題である。
核融合研究は1960年代から世界的な規模で研究が進められており、10年毎にプラズマ 温度、閉じ込め性能ともにほぼ10倍になって来ている。2020年代中には発電を実証す る原型炉の開発を目指す段階にさしかかっている。JT-60とJFT-2Mは世界の中枢研究 機関としても機能し、常時多数の外国人研究者が共同研究に参加している。また、那 珂研究所には、国際協力で進めているITER(国際熱核融合実験炉)のための設計サイ トがある。
今大学院生として研究を始めた人は、中堅の研究者として21世紀前半の原型炉建設に 携わることになるであろう。
世界最大のタンデムミラー型プラズマ閉じ込め実験装置ガンマ10。写真の上下が装
置の軸(z)方向。多数のプラズマ加熱装置や計測装置が周囲に配置されている。
図1 ガンマ10の磁場強度(緑)と、想定される電位(赤)の軸方向分布。プラグ
部のピーク電位でイオンの軸方向損失を抑制する。
図2 速度空間内の端損失イオン強度分布。$v_\parallel$と$v_\perp$は磁力線方向
、磁力線に垂直方向の速度。特徴的な2重損失境界が見える。
図3 磁気プローブによる磁場揺動の周波数スペクトル。イオンサイクロトロン周波
数のすぐ下にAICモードの励起を示す離散的なピークが観測される。
図4 AICモードの伝播のシミュレーション。
図5 アンカー部の高温電子から放射されるX線のピンホールカメラ像。アンカー部
の非軸対称磁場配位を反映した分布が見られる。
図6 タンデムミラーで初めて検証されたD-D熱核融合反応による中性子(2.5 MeV)の
測定データ。
図7 放電プラズマ中の振動が、周期倍分岐によりカオスに至る現象をリサージュ図
で示した実験結果。
図8 日本原子力研究所那珂研究所のトカマク型核融合実験装置JT-60U。プラズマは
ドーナツ状に生成される。
図9 輸送障壁の形成を示すイオン温度の径方向分布のデータ。輸送障壁の形成によ
りプラズマ閉じ込め性能が向上する。