半導体実験研究グループ


 

研究していること

ナノメートルとフェムト秒の世界へようこそ

量子力学が基本原理となる世界

電子のド・ブローイ波長以下の数ナノメートル(1nm = 10-9m)程度の固体では電子の波としての性質や粒としての性質、すなわち量子性が顕になり、固体の電子物性はマクロなサイズの場合の電子物性とは大きく異なってきます。このように電子の量子性が効いてくる数ナノメートル程度の半導体(半導体量子構造)を主な研究対象とし、新しい現象や性質を見出すのが主要な研究目的です。半導体量子構造で起こる 新しい現象や性質を見出すには、光による応答を調べるのは最も有効な手法です。光の位相を自由に制御するのがレーザー技術ですが、研究のアプローチとして、フェムト秒(1fs = 10-15s)パルスレーザー、ピコ秒(1ps = 10-12s)パルスレーザー、極めて単色性に優れたレーザーを用いて現象の発展を時間的に追跡したり、エネルギー的に追跡するのが当研究室でとっている手法です。これらの現代の最先端をいくレーザーを用いることで、数ナノメートル程度の半導体中で起こっている電子の量子過程をフェムト秒の時間スケールで知ることができ、これが半導体量子構造で起こる新しい現象や性質を見出すのに最も有効なのです。

先生と大輔くん、真希さんの会話から


「量子力学は習ったけど、むずかしかったよな。現代物理学の基礎って先生は言ってたけどさ…」



「“電子が波としての性質を持つのは、電子線回折がおこるのが証拠”よね。そういえば電子波のド・ブローイ波長って高校の物理でも習わなかったかしら?」


「ええっと、確かl=h/mvだったかな。例えば100 meVの電子だと…(計算して)…v=6´105 m/sの速度を持っているから、ド・ブローイ波長は…1.2 nm (12 A) だ!」


「ド・ブローイ波長くらいの大きさの箱の中に電子を閉じ込めると量子性が顕著になるって習ったわ。ナノメートル(nm)ってそういうサイズなのかしら。」


「その通り! いいところに気づいたね。半導体をナノメートルサイズにすると、電子がこの中に閉じ込められて波動としての性質が顕著になるんだ。大学3年生の量子力学で習ったと思うけど、ポテンシャル井戸の中に閉じ込められた電子の固有関数や固有エネルギーを考えたよね。」


「“井戸型ポテンシャル問題”ですか。あれ、計算がめんどくさくて苦手だったな〜」


 でもほら、図を見れば一目瞭然だよ。右の図を見てごらん。例えば“無限に高い障壁を持つ、厚さ5 nmのポテンシャル井戸(量子井戸)”を考えると、閉じ込められた電子のエネルギーは量子化されるだろう。このときの一番低いエネルギー準位のエネルギーはゼロではなくて、1.5 meVになるね。さらに半導体中では電子は有効質量という質量を持っていて、裸の電子の質量よりもかなり軽い分、エネルギーがもっと大きくなるんだ。ためしに有効質量が通常の電子質量の1/5だとして計算してごらん。」

「え〜と…ポテンシャル井戸中の電子のエネルギーは h2/2mL2になるから、L = 5 nmとしてm = 0.2 meとすると…15 meVになるわ。」


「ということは、ポテンシャルのサイズによってエネルギーが大きく変わるんだ! L = 2 nmとすると電子のエネルギーは94 meVも高エネルギー側に移ることになるもんな。」


「その通り。これが、まさに量子サイズ効果と言っている概念なんだ。サイズを変えることでエネルギーを変えることができるから、人間が自由に物質中の電子のエネルギーを変えられるという技術を手にしたわけだから、すごいことだよ。人間が自由に作れる量子力学的な世界なんだ。英語ではDo it yourself Quantum Mechanicsと言っているんだ。」


「量子力学的な世界を自由に制御するというのは面白そう。」


「でも、サイズによってエネルギーを自由に制御できるのは分かったけど、具体的にそれが何かの役に立つのかな。」


「身近な例ではほら、君たちの持ってるそのCDプレーヤーだ。CDは半導体レーザーでピックアップしているというのは聞いたことがないかい? その半導体レーザー自身、実は量子井戸でできているんだよ。サイズを変えるだけでエネルギーが変わり発振波長が変わり、光の色が変わるということで、光メモリーなんかの光学デバイスには最適なんだ。」


「へ〜、身の回りにこんな応用例があったなんて、意外だな。」


「量子ドットは3次元的な方向にポテンシャル井戸を作り量子井戸を作ったもので、いわば“人工的な原子”だとも言えるんだ。半導体を数nmのサイズにすると実際、原子の軌道に見られる、1s, 2s, 2p・・・状態などが光スペクトル上に見えるんだ。3年の物理学実験(半導体)でも勉強しましたよね。」


「べ、勉強したわよね、大輔君。」



「お、おう。」


「21世紀には、“人工的な原子”量子ドットをならべて、“人工的な原子”を並べた新しい材料が生み出されて、物理学の大きな進歩があるかもしれないね。半導体の量子構造は、1985年にクリッティングの量子ホール効果の発見、1998年にシュテルマー、ツーイ、ラフリンの分数量子ホール効果の発見、2000年にアルフェロフ,クローマー,キルビーに半導体へテロ接合やICの開発がノーベル物理学賞に輝いたように、物理学で最も活気がある研究分野の一つなんだよ。」






「フェムト秒っていうと、10-15秒か。ピンとこないなあ。」



「“まばたきする時間”より、ずっと短そうだし、・・・よくわからないわ。」


「1フェムト秒とは1秒間に地球を7回半回ると言われる光が、真空中でたった0.3?mしか進めない程度の時間だよ。」



「そんなに短い時間をどうやって測るんですか?」



「それは光の走る距離を見て測定するんだよ。」



「そういうものすごく短い時間で測定をすると、どういう現象が分かるんですか?」


「いい質問だね。半導体のような固体中で電子が散乱を受けると量子状態が変化するんだけど、この時間スケールが一般に数フェムト秒からピコ秒(10-12 s)やナノ秒(10-9 s)の範囲にあるんだ。フェムト秒のパルスレーザーを使った分光測定(フェムト秒レーザー分光法)を行うと、時間的に電子の量子状態が刻々と変化していく様子がわかるんだよ。いわば、時間顕微鏡だね。」


「微小時間での量子現象か。面白そうだけど、実験は難しそうだなぁ。」


「先輩についてステップ・バイ・ステップでやっていけば、ちゃんとこなせるようになるから大丈夫。それに、フェムト秒時間での物質の振る舞いの解明は、ここ10年くらいで測れるようになって発展してきた新しい研究分野なんだ。この研究分野は物理だけでなく、化学や電子工学、生物科学など広範囲にわたって成長している研究分野なんだよ。」


「測るものはミクロだけど、研究のスケールは大きいんですね。」


「そう。この研究分野の誕生で、はじめてわかったことは多いんだ。21世紀にはどこまで発展するのかが楽しみだよ。君たちも、もしこの分野に興味を持ったら、一度研究室を訪ねてみなさい。」



「は〜い」




※化学の分野では、昨年カリフォルニア工科大学のズベイルがノーベル化学賞に選ばれたのは、この分野の重要性が評価された表れと言えます。今では、時間的に変化する電子の波動関数をフェムト秒レーザーで制御することも可能になりました。


 

4年生の生活

?   時間割

 

1限

ゼミ(*1)

 

 

 

 

2限

 

 

 

物性物理学?

3限

 

 

 

 

 

4限

 

 

 

 

 

5限

 

 

 

ゼミ(*2)

 

6限

 

 

 

 

ゼミ*1…研究室全体ゼミ。(9:30〜12:00ぐらい)

最近の論文の中で興味のあるものを選び内容を紹介する。論文をこういった場で吟味することで物理的解釈や測定技術などの理解を深め、自分の研究テーマに役立てます。またこの時間を利用して月に1回Monthly Report(実験報告)を行います。ここでこれまでの結果についての現状報告をし、測定方法などにアドバイスをもらったり、今後の方針を話し合います。だいたい1人1〜2回/月の発表。

ゼミ*2…4年生・大学院1年生対象。「キッテル固体物理学入門  上・下」の勉強会。

固体物理学入門(キッテル著)のテキストを大学院の上級生を先生に4年生が勉強しています。1つの章を2人ほどで分担して勉強し内容を発表しながら進めていきます。その中でわからないこと、誤りであるところ、重要なところについては大学院の上級生が解説を加えていく形で行われます。時間帯は授業などの都合に合わせて決定します。

上記以外の時間で実験を進めたり、居室で勉強、足りない単位をとるための授業(^^)に行ったりしています。

?   研究内容と進路

卒業研究の内容は研究室が決まってすぐに舛本先生と相談して決めます。その時に自分の希望する進路(就職か進学、また教育実習など)についても話し合うことになると思います。いずれの進路を選んだにせよ1学期の間は就職の人は就職活動、進学の人は院試の勉強をしながら卒業研究の準備をすることになります。具体的にはサンプルを作成したり、大学院生の実験の補助をしながらこれから使うことになる測定機器についての扱い方法を少しづつ学んでいくといったことになります。そのため卒業研究は進路がはっきりした2学期から本格化するというのが実際のところです。研究室の方針として4年生の研究も新しい研究として成立しそうなテーマを選ぶという方向でいるので一生懸命がんばった場合、4年生の研究が日本物理学会の発表や論文にすらなる場合もあります。テーマとして伸びそうな場合には修士や博士課程でのテーマに発展していきます。基本的に少人数または個人単位での研究になるので自分のペースで進めていくことになります。ですから個人差がありますが毎日が測定ということはありません。大体の人が低温での測定になると思いますが、用いる寒剤(液体ヘリウム)の制約上1回の実験は1日で終わります。これをよい実験にするために機器の調整などを十分に行ってから本番の測定をする必要がありますので実験前の数日間は準備にあてるというのが通例です。そして解析を行いアドバイスをもらいながら次回の方針、改善点などを考えます。測定が少人数単位なのでこのいろいろな人と結果について考えるところが重要になってくると思います。一人だと何かと行き詰まってしまいますから。実験はこのような感じで進めています。

 

 

研究室卒業者の進路

博士課程修了者は研究業績次第です。半導体のレーザー分光の研究の世界で通用するプロフェッショナルに飛躍することも可能です。修士課程修了者は研究・勉強を通じて自分を売り込む実力を身に付けることが企業での研究者をめざす場合、大事のようです。毎年、春に、先輩のリクルーターの来訪が多くあります。企業での研究者・技術職がどういうものか、話をよく聞くと分かります。

□ 博士課程修了者(詳細はホームページ参照)

情報通信研究機構 新世代ネットワーク研究センター 研究員/東北大学多元物質科学研究所→科学技術振興事業団大津プロジェクト研究員/富士通研究所ナノテクノロジー研究センター研究員/独マインツ大学研究員→米ワシントン大学研究員/九州工業大学工学部助手/筑波大学物理学系助手→筑波大学数理物質科学研究科講師/学振未来開拓PD→米テキサス工科大学研究員→米コーネル大学研究員/山形大学工学部助手→科学技術振興事業団大津プロジェクト研究員/学振未来開拓PD→奈良先端科学技術大学院大学助手→東京化学研究所/科学技術振興事業団舛本プロジェクト研究員→工業技術院物質工学工業技術研究所研究員→米テキサス大学研究員→米マサチューセッツ工科大学研究員/筑波大学物理学系助手→山口大学工学部助教授/東北大学理学系研究科助手→奈良先端科学技術大学院大学助教授/産業技術総合研究所研究員→産業技術総合研究所主任研究員

修士課程修了者

ブリジストン、テルモ、日立メディコ、ペンタックス、アンリツ、アイシン精機、NEC、日立製作所、東芝、富士電機、ソニー、松下電器、三菱電機、ホンダ、NTTデータシステムズ、大日本印刷、コニカ、キャノン、川崎製鉄、NTTAT、島津製作所、サンケン電気、トヨタ自動車、東京三菱UFJ銀行、リコー、高校教員、IT関連各社

学類(学部段階)卒業者

修士課程修了の場合と重複、他に、スタンレー電気、日産、カシオ、安川電機、IT関連各社

 

 

学系だより

2010年 学系だより

2011年 学系だより

 

連絡先

舛本先生 居室( B609 ) Tel: 029-853-4248

池沢先生 居室( 総合研究棟B棟405 ) Tel: 029-853-5908

冨本先生・大学院生 居室( B216 ) Tel: 029-853-4348

大学院生・ 4 年生 居室( D204 ) Tel: 029-853-4350

主要な実験室は D102、D106-2、1F104 および総合研究棟B425〜428 です。その他、ベンチャービジネスラボラトリー、理工学修士棟にも実験室があります。これらの実験室間、居室間は LAN で互いに接続されており、実験データーのやりとりも容易です。これらの実験室には、多くの最新鋭のレーザー、分光装置、試料作成装置があり、国内はもちろん世界でも有数のレベルの研究環境です。研究室の全般的なことは、舛本先生、実験研究の実際については大学院生居室( D204 )にコンタクトください。ホームページにも多くの情報があります。電子メールでの問い合わせも歓迎します。

 

Text: Y. Masumoto, T. Takara / Arrangement: Bamboo T., Kaori