: 不純物による散乱
: 輸送現象
: 電気伝導度
目次
(5.2.1)式で導入した緩和時間
を量子力学的に考察してみよう.伝導電子が1つのブロッホ状態から他のブロッホ状態へ散乱されるのは,不純物や格子振動による格子の乱れによるのであり,その乱れは一般に自由度を含んでいる.格子振動の場合には,それはフォノンの振動数,進行方向,偏極の方向であり,不純物の場合であれば,その自由度は不純物にある電子の配置やスピンの向きである.伝導電子がこれらによって散乱されたときに,散乱体のエネルギー変化がなければ,その過程は弾性散乱であり,エネルギー変化のあるときは非弾性散乱と考えなければならない.
一般に摂動ポテンシャル
があるときに,系が
から
へ移る遷移確率
は,一次のボルン近似では
で与えられる.伝導電子の
から
への散乱に際して散乱体のエネルギー変化を
,散乱ポテンシャルを
とすると上式は
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(5.3.18) |
となる.散乱によって単位時間に
にある電子の分布の変化は,散乱でスピンは保存するとして,
第1項は着目している
状態へ入ってくる散乱,第2項はそこから出て行く散乱を表す.
弾性散乱を考えることにして(5.3.2)式で
,
を無視しよう.
ここで(5.1.2)式を用いた.
系は等方的であるとし,
は
と
のなす角
のみの関数とおく.いま仮定している緩和時間
を使って
は(5.2.2)式で表されるから,
一方,(5.2.1),(5.2.2)式より,
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(5.3.21) |
であるから,(5.3.3),(5.3.4)式より
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(5.3.22) |
は電気伝導のような輸送現象に特有の緩和時間である.
種々の散乱過程が存在するときには,それぞれの過程における散乱ポテンシャル
を求め,その散乱による緩和時間が上の式から得られるわけである.もしそれらが互いに独立な散乱過程であれば,それぞれの過程による緩和時間を
として
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(5.3.23) |
で与えられる
が電気抵抗を決めることになる.
: 不純物による散乱
: 輸送現象
: 電気伝導度
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Masashige Onoda
平成18年4月7日