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: 参考文献 : X線診断 : X線診断   目次

X線診断の歴史

図 A.1: 最初のX線写真(レントゲン夫人の手)
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X線は1895年にドイツのレントゲンにより発見された.X線の発見とそれに引き続く原子物理学の発展は,20世紀前半の科学史のハイライトである.X線の発見は,物理学の世界だけではなく,医学界からも注目された.それは,レントゲンの最初の報告において,X線が身体内部を映し出す能力を持つことに言及し,夫人の手のX線写真(図A.1)を添えておいたからである.この報告に引き続いて,四肢や胸部などのX線撮影が世界各地で試みられ,20世紀初頭には,X線診断はこれらの分野の診断法としての地位を確立している.

第一次世界大戦の前後にはX線診断法はひととおりの完成の域に達した.その後,第二次世界大戦後の1960年代に蛍光スクリーンによる透視がX線テレビにより置き換えられ,1980年頃にはイメージングプレートが登場している.また,現在はフラット・パネル・イメージャの実用化がはかられている.

上で述べたX線撮影装置は,肺や骨などX線でコントラストのつく臓器,また管になっていて中に造影剤(バリウム,ヨウ素化合物)を注入できる臓器(血管や消化管)の診断には威力を発揮する.しかし,全く歯が立たない臓器がある.たとえば,脳や肝臓など中身が詰まった臓器(実質臓器)は,X線でコントラストがつかず,造影することもできない.こういう臓器に威力を発揮するのがCTである.

図 A.2: X線CT画像の例:脳出血と脳梗塞
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老人が頭痛がすると言って急に元気がなくなり,そのうち意識まで失うといったことがある.これは大変な病気で,脳卒中である可能性が高い.脳卒中には脳の血管が詰まる脳梗塞と血管が破裂する脳出血とがあり,治療法が全く異なる.これらはCTで頭部の撮影を行うことにより簡単に判定できる.図A.2左は脳出血の場合のCT画像であり,右は脳梗塞の場合である.図からわかるように出血の場合,病巣は白く描出され,梗塞の場合は黒く描出される.CTは実質臓器の診断に有効であることがわかる.

CTは1973年にイギリスのハウンスフィールドらによって発明された.X線発見以来の最大の発明といわれ,発表後,急速に普及した.発明者のハウンスフィールドは,CTに関して先駆的研究を行ったコーマックとともに,1979年のノーベル生理学・医学賞を受けた.ハウンスフィールドは技術者であり,コーマックは物理学者である.このような人達がノーベル生理学・医学賞を受けるのは極めて異例であり,それだけCTのインパクトが大きかったことを示している.

CTとはどのような装置であろうか.CT装置は被験者が横たわる寝台と,ガントリーと呼ばれる撮像部からなっている.ガントリー内にはX線管と検出器が対向して配置されていて,X線管と検出器は被験者の周りを高速に回転しながら,X線を照射する(図A.3).検出器では身体を透過してきたX線の強弱が電気信号に変換される.これをコンピュータに取り込み,透過強度から横断面でのX線の減衰割合を計算する.このような原理により横断面の画像を得るCTが,普通のX線撮影では写らない実質臓器を,なぜ良好なコントラストで撮影できるのであろうか.この理由は次の3つである. enumdepth >@@toodeepenumdepthne enumctrenumenumdepthlabelenumctr listdepth=ne @ zw zw enumdepth=ne zw zw @ @ @enumctr##1##1X線撮影では前後の像が邪魔をして,淡いコントラストの被写体は描出しにくい.それに比べて,CTでは重ならない画像を観察できる. CT装置のX線検出器は非常に高感度で,数万分の1以下の強度変化まで検出できる.それに比して,X線撮影では一般に千分の1程度の強度変化しか検出できない. X線が身体の中で減衰するとき,吸収による消失だけではなく,散乱といって進行方向が曲げられる現象が同時に起こる.散乱されたX線は,X線画像上になだらかなバックグラウンドを形成し,画像のコントラストを弱くする.CTではこの散乱線を極力除去する工夫がなされている.

図 A.3: X線CTの原理
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1980年代にはコンピュータ技術の発展により,臓器の三次元形状を表示したり手術のシミュレーションを行ったりする三次元画像処理が実用的なものとなってきた.X線管と検出器を連続回転させ,さらに寝台を連続移動させる「らせん走査CT」により,CTの解像力の異方性は改善され,CTを用いた三次元画像処理は実用的なものとなった.図A.4はCT画像かあら骨だけを抜き出して示したものである.

図 A.4: 頭蓋骨の三次元画像.顔面が複雑骨折している.
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Masashige Onoda 平成18年4月11日