少しエネルギーの高い状態を作るには,フェルミ面内のという軌道から電子を取り出し,球の外の
という軌道におけばよい.このときのエネルギーの増分は各軌道のエネルギーの差で与えられる.この差は
,
が
に近づくにつれ,いくらでも小さくなりうる.すなわち励起エネルギーはいくらでも小さくなることができ,励起状態は基底状態と連続的につながっていると考えてよい.
超伝導状態では事情は一変する.励起エネルギーは,,
をどんなに
に近づけてもゼロにはならず,ある一定値より大きい.すなわち,励起状態は基底状態と連続的にはつながっていない.このギャップに対する最も直接的な証拠はトンネル効果である.超伝導体と常伝導体とを非常に薄い絶縁体の膜を隔てて密着させる.電子は量子力学的なトンネル効果によって,SからNまたはNからSへと移ることができる.常伝導体ではエネルギーが連続的につながっているのに対し,超伝導体ではギャップが存在している.このため電子が飛び移るには,外からギャップに相当するエネルギーを供給してやらなければならない.このエネルギーはSとNの間に電圧
をかけることによって供給されるが,このときの差
がギャップを超すと電子が飛び移って電流が流れることになる.
ここで電気抵抗がなぜなくなるかについてふれておこう.普通の金属では,外から電場をかけると,金属内の伝導電子は一様に加速されて動き出す.これは運動量空間でフェルミ球の中心が電場と反対側にずれて,運動量の総和がゼロでなくなることに対応する.全体としてこのずれを元に戻そうとする散乱が多くなり,電場による電子の加速とあるところで釣り合い,電場に比例した一定の電流が流れることになる.これが電気抵抗となる.一方超伝導体では,電子の励起エネルギーにギャップが存在するため,電子の散乱はできなくなる.常伝導体では個々のエネルギーは変えずに,運動量の方向だけを変えることが可能であるのに対して,超伝導体の個々の電子の運動量の方向を変えるには電子対を壊さなければならず,エネルギーを高くしてやらねばならない.