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: 磁性体の分類 : 磁性 : はじめに   目次

物質の磁化

一般に物質は磁場によって磁化されるので,その意味では全ての物質が磁性体である.物質の磁化$M$は外部より作用する磁場$H$の関数として,$M(H)$で表され,これを磁化曲線という.$M$$H$は通常ベクトルで与えられる.磁化が磁場に比例する場合( $\mbox{\boldmath$M$} = \chi\mbox{\boldmath$H$}$),比例定数$\chi$帯磁率とよぶ.異方的な結晶の場合,磁化は磁場の方向にも依存し,$\chi$は一般には3次元のテンソルである.

磁化の磁場依存性の例を図6.2に示す.実際は,これらの曲線の組合せによりさらに複雑な磁化曲線を示すこともある.なおここでは,超伝導体に現れる反磁性磁化曲線については述べない.

図 6.2: 磁化の磁場依存性
[常磁性]\includegraphics[height=6cm]{figure2a.eps}                  [ヒステリシス曲線 [ref5]]\includegraphics[height=6cm]{figure2.eps}

(1) 線形磁化曲線

常磁性体などで,通常の磁場のもとに磁化が

$\displaystyle M = \chi H,$     (6.2.4)

で与えられる場合である(図6.2(a)).

(2) 非線形磁化曲線

強磁性磁化曲線は図6.2(b)のように非線形であり,磁場の昇降によって履歴(ヒステリシス)を伴う.磁場ゼロで磁化がゼロの状態から出発して,磁場をたとえば順方向に増加すると,磁化はOABCの曲線をたどって増加し飽和する.OA部では磁化と磁場の関係は可逆的であるが,この範囲を越えるともはや磁化は可逆的でなくなる.Cの状態から磁場を減少させると,磁化は少しずつ減少するが,磁場ゼロでも有限の磁化を示す.これを残留磁化と呼ぶ.次に磁場を逆方向へ増加していくと,磁化は一層減少してある磁場OEでゼロになる.この磁場を保磁力と呼ぶ.さらに逆方向に磁場を増加させていくとEFの曲線をたどって飽和する.ここから磁場を戻して順方向に増加させると,磁化はFGCの曲線をたどる.このように磁化曲線は一つの閉じた曲線になる.つまり強磁性体は前にどのような磁場が加えられていたかで磁化の状態が異なり,磁化の値は磁場だけで決まらずに過去の履歴に関係する.これが磁気ヒステリシスである.CDEFGCの閉じた曲線はヒステリシスループと呼ばれる.この形は物質により異なり,さらに同じ物質でも熱処理や機械的処理によって著しく変化する.良い単結晶ではOEは極めて小さい.残留磁化が大きい物質は磁気テープや磁気ディスクに適しており,保磁力の大きい物質は永久磁石に適している.

(3) メタ磁性

この他の非線形磁化の例はメタ磁性である.これは磁場を増加させていくと,ある磁場$H = H_{\rm c}$で突然磁化が増大して飽和し,磁場を下降させると,多少のヒステリシスを伴うこともあるが,$H = 0$で残留磁化はほとんど残らず,磁化曲線はほぼ可逆的である.


Masashige Onoda 平成18年4月7日