: スピンハミルトニアン
: 磁性
: 軌道常磁性
目次
(3d)電子が結晶中にあると結晶電場によるエネルギー準位の分裂が生じる.イオン結合的結晶を採用して,磁性イオン上の電子が周りの正・負のイオンから受ける電場を考える.結晶の中の各イオンの位置を
,電荷を,磁性原子の周りの電子の座標を
とおくと,電子の受ける静電エネルギーは
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(6.7.67) |
と書ける.は
と
の作る角度である.電子は磁性イオンの近くに束縛されていると考えとすると数学公式により,
はルジャンドル関数を用いて
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(6.7.68) |
と書かれる.ここで
は,電子とイオンの座標で書くことができる.
は,さらにルジャンドル陪関数
を用いて
と書けるので
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(6.7.70) |
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(6.7.71) |
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(6.7.72) |
,を求めるには結晶の原子座標とを与えて,に対する和を計算する必要がある.与えられた結晶に対して,すべての,が必要ではない.それは結晶電場によるエネルギーは
と同じ形のルジャンドル陪関数を含む波動関数
によって
のように3つの球面関数の積の積分として与えられるからである.
のd,のf波動関数をとると,とに対する格子和は以下のように限定される.
- の電場に対する格子和は電子軌道に対して等方的(丸い)であるので,そのエネルギー準位には影響を与えない.このの格子和はイオン結晶の結合エネルギーを与えるマーデルングエネルギーそのものである.
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(6.7.73) |
- が奇数の電場部分は,波動関数の積の偶関数性によって自動的に消失するので,この項は必要ない.
- が偶数の場合,dとf波動関数に影響を及ぼす,には上限があって,
の和をとる必要はない.その上限はd関数に対してはと,f関数に対してはとだけである.それは,に対する積分は消失するからである.
- こうして選び出された,は,とりあげている結晶の対称性(厳密には着目する磁性イオンの周りのイオン配位の対称性)によってさらにその数が限られる.
d波動関数が立方晶の結晶電場に置かれた場合を考える.中心の磁性イオンはd電子1個のみをもつと考える.周りのイオンは
,
,
に電荷をもつ.
結晶場の対称性から
の操作で不変なものとして,と,だけが残り,さらにイオン1,2,イオン3,4のように反対向きのイオンについての和をとる場合に,
の項は打ち消しあう.
したがって
の内容を書かなかったのは,点電荷模型が成立しない場合にも使う目的のためである.
d電子が1個の場合とすれば,自由イオンの波動関数は球関数
で与えられる.
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(6.7.75) |
これらの関数を用いれば
を得る.したがって固有値は
より
(2重縮退),(3重縮退)となる.固有関数は,
のとき
のとき
となる.
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Masashige Onoda
平成18年4月7日