next up previous contents
: 完全反磁性の現象論 : 超伝導と遷移金属酸化物 : エネルギーギャップ   目次

超伝導体の熱力学

超伝導体の状態は温度$T$と外からかけた磁場$H$によって完全に決まるから,超伝導体の熱力学を作ることができる.まず,超伝導状態と常伝導状態の自由エネルギーを,温度$T$と磁場$H$との関数として,それぞれ $G_{\rm s}(T, H)$ $G_{\rm n}(T, H)$とおく.$H = 0$$T < T_{\rm c}$では超伝導状態が実現しているから,$G_{\rm s}$の方が$G_{\rm n}$より小さい.磁場$H$がかかると,超伝導状態では内部で磁場をゼロにするように表面に電流が流れ,そのための運動エネルギーが増加する.内部での磁場がゼロになるように電流が流れていることから,そのエネルギーを計算すると
$\displaystyle G_{\rm s}(T, H) - G_{\rm s}(T, 0) = -\int_{0}^{H}M{\rm d}H = \int_{0}^{H}\frac{H}{4\pi}{\rm d}H = \frac{H^{2}}{8\pi},$     (7.3.2)

となる.一方常伝導状態では,磁場がかかっても何も変化しないので
$\displaystyle G_{\rm n}(T, H) = G_{\rm n}(T, 0),$     (7.3.3)

である.臨界磁場$H_{\rm c}$では,二つの相は釣り合うから,二つの自由エネルギーは等しくなければならない.すなわち
$\displaystyle G_{\rm s}(T, 0) = G_{\rm n}(T, 0) - \frac{H_{\rm c}^{2}}{8\pi}.$     (7.3.4)

これから二つの相のエントロピーを求めると,
$\displaystyle S_{\rm n} = -\frac{\partial G_{\rm s}}{\partial T} = -\frac{\part...
...\rm d}T} = S_{\rm n} + \frac{H_{\rm c}}{4\pi}\frac{{\rm d}H_{\rm c}}{{\rm d}T},$     (7.3.5)

となる. $\frac{{\rm d}H_{\rm c}}{{\rm d}T} < 0$であるから, $S_{\rm s} < S_{\rm n}$となる.エントロピーは,その系の無秩序の度合いを表しているから,超伝導状態の方が秩序だっており,何らかの意味での規則性が存在していることになる.

(7.3.4)式より磁場$H_{\rm c}$のときの超伝導から常伝導への転移では, $T(S_{\rm n}-S_{\rm s})$の熱量を発生することになり,潜熱を伴う1次の相転移であることがわかる.

$\displaystyle T(S_{\rm n}-S_{\rm s}) = \frac{TH_{\rm c}}{4\pi}\frac{{\rm d}H_{\rm c}}{{\rm d}T}.$     (7.3.6)

$H_{\rm c} = 0$すなわち$T = T_{\rm c}$では,上式はゼロになり潜熱はない.

比熱は

$\displaystyle \Delta C = C_{\rm s} - C_{\rm n} = T\frac{\partial S}{\partial T}...
... c}}{{\rm d}T^{2}} + \left(\frac{{\rm d}H_{\rm c}}{{\rm d}T}\right)^{2}\right],$      

となり,$T_{\rm c}$では$H_{\rm c} = 0$とおいて
$\displaystyle \Delta C(T_{\rm c}) = \frac{T_{\rm c}}{4\pi}\left(\frac{{\rm d}H_{\rm c}}{{\rm d}T}\right)^{2},$     (7.3.7)

となる.こうして$H = 0$での超伝導と常伝導の相転移は潜熱はなく,比熱が不連続になる2次の相転移であることがわかった.

Masashige Onoda 平成18年4月7日