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: 演習問題 : 超伝導と遷移金属酸化物 : 酸化物高温超伝導体   目次

フラストレーション系超伝導と新物質探索

超伝導状態は,フェルミ統計に従う電子がクーパー対と呼ばれる電子対を形成し,それらがボーズ凝縮することにより発現する.このとき対を形成した電子は,格子による散乱を受けることなしに固体内を移動することができるようになり,超伝導状態が実現する.BCS理論によると,クーパー対の形成には電子とフォノンとの相互作用が大きく関与する.しかしフォノンによる対形成では,$T_{\rm c}$の上限は30 [K]程度にしかなりえない.一方現在までに見つかっている高温超伝導体では,$T_{\rm c}$が最高で130 [K]を越えている.

酸化物の高温超伝導相は,モット絶縁体である反強磁性絶縁相にキャリアを注入することにより現れる.多くの系でキャリアはホールである.通常の金属では同じ原子席における上向きスピンの電子と下向きスピンの電子は相互作用が弱く,縮退状態にあるとみなせる.一方,モット絶縁体の形成にはこれらの同一席上の異なったスピンの電子間の相互作用が重要な役割を果たしている.この相互作用により,原子軌道がつながっている状態で1サイトに1個の電子がある場合であっても,電子が局在し動けなくなる状態(モット絶縁体)が出現する.モット絶縁体にキャリアをドープすることにより得られる高温超伝導体では,このような電子間相互作用(電子相関)が強く働いていると考えられる.特にドープ量が少ない領域では,超伝導状態出現前に電子状態密度に擬ギャップが現れることがわかっている.この擬ギャップの起源についてはスピンギャップである説と,電子対の形成がインコヒーレントに起こっている説が有力であると考えられている.

最近Na$_{x}$CoO$_{2}$$\cdot y$H$_{2}$O系の超伝導( $T_{\rm c} \simeq 5$ [K])が報告された7.4.図7.11に示すように本系はCoイオンの二次元三角格子構造を持つ.$x = 0$ではCo$^{4+}$ (3d$^{5}$)となり,この状態がモット絶縁体であるならば,強い結晶場のもとでは $S = \frac{1}{2}$の三角格子スピン系,すなわち幾何学的フラストレーション系7.5とみなすことができる.$x \ne 0$では$x$個の電子がドープされることになり,銅酸化物の高温超伝導相との比較は非常に興味深い.

二次元幾何学的フラストレーション系における超伝導の発見は,新物質探索研究の重要性を如実に示している$\cdots$

図: nco1 Na$_{0.3}$CoO$_{2}\cdot y$D$_{2}$Oの結晶構造とnco2 Co三角格子構造
[]\includegraphics[height=75mm]{naxcoo2yd2o.eps} []\includegraphics[height=75mm]{naxcoo2yd2o-ab.eps}


Masashige Onoda 平成18年4月7日