: 磁性
: 輸送現象
: 不純物による散乱
目次
実際の導体の電気抵抗は温度とともに変化するが,この温度変化をする部分は伝導電子が格子振動(フォノン)によって散乱されることからおこる電気抵抗である.フォノンには振動の偏光方向や,音響型と光学型のタイプで区別される各モードにおいて振動数の分散があり,フォノンによる伝導電子の散乱は非弾性散乱である.
伝導電子に対するポテンシャル
は結晶が完全に周期的に並んだときのものであり,それは
と書けるものとする.
は
番目の原子からのポテンシャルである.格子点
の原子が格子振動によって
へ動いたとすると,そのための
の変化は
で与えられる.この
が散乱ポテンシャル
に相当する.いま伝導電子の波動関数を自由電子の関数に近似できるとすると
ここで
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(5.5.36) |
の記号を導入し,
をフォノンのモードで展開して
と表す.
はモードを指定する添字である.
は実の量であるから
の関係が成り立つ.さらに
を任意の逆格子ベクトルとして
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(5.5.37) |
を用いると,(5.5.1)式は散乱ベクトル
を使い,
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(5.5.38) |
(5.5.4)式を(5.3.2)式に代入すれば,フォノンの散乱による
への寄与が求まる.このときフォノンのモード
の1次までの近似では,散乱過程でフォノンが吸収されるものと放出されるものがあり,(5.3.2)式におけるエネルギー保存則から
とおいて,
を満たすところが拾い出されるようになる.
は波動ベクトル
をもつフォノンのエネルギーである.
(5.5.4)式で
の散乱過程を正常過程と呼び,
のものをウムクラップ過程と呼ぶ.ウムクラップ過程では,
の状態にある電子がフォノンとの散乱で
の運動量だけでなく,結晶から
の運動量をもらったり,与えたりする過程である.
ここでは正常過程だけを考える.すなわち(5.3.2)式の
関数におけるフォノンのエネルギー
を無視し,(5.5.4)式における
はゼロとおく.このときには(5.3.5)式を用いることができて,
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(5.5.39) |
ここで
は近似的に
にあまり依存しないとして
とおき,積分の外へ出せるとする.またフォノンの3つのモードを区別しない近似では
と書ける.
で指定されたフォノンのエネルギーは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和であるが,ビリアル定理により両者の統計的な平均値は等しいから,状態
のエネルギーの平均値は
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(5.5.40) |
一方,フォノンはボーズ統計に従うので,分布関数
を使って,上のエネルギーは
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(5.5.41) |
と表すこともできる.ここで
の項はゼロ点エネルギーを表す項であり,これは電気抵抗に寄与しないので以下では無視する.(5.5.6)と(5.5.7)式から
が得られる.これを(5.5.5)式に代入して
いまの弾性散乱の扱いでは,フォノンの波動ベクトル
に対しては
が成り立つ.さらにフォノンに対してはデバイ模型を仮定して
の関係式を用いると
となる.この式から,
では,0から
の範囲のすべてのフォノンが熱的に励起されて積分に寄与するが,そのときの積分の上限
は1に比べて小さいので,積分の中を
で展開することが許される.その結果,
となり,
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(5.5.45) |
になることがわかる.一方
であれば,積分の上限を
で近似してよく,積分は
に依らない値に近づくので,
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(5.5.46) |
になる.
以上はフォノンによる散乱を弾性散乱として扱った結果であるが,非弾性散乱の過程を正しく扱うと
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(5.5.47) |
という形の式が得られる.
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Masashige Onoda
平成18年4月7日