next up previous contents
: ミクロな測定手段 : 高温超伝導 : 高温超伝導   目次

酸化物高温超伝導体のマイスナ−効果:YBa$_{2}$Cu$_{3}$O$_{7-\delta }$

図 13: YBa$_{2}$Cu$_{3}$O$_{7}$の結晶構造
r0.3
\includegraphics[width=0.25\textwidth, clip]{yba2cu3o7cv5.eps}
1911年にオランダのK. Onnesが水銀の超伝導を発見した.その転移温度$T_{\rm c}$は4.1 [K]であった.それ以来,金属,合金,化合物の超伝導物質が次々に発見され,$T_{\rm c}$も上昇してきたが,超伝導発見後の75年間における$T_{\rm c}$の最高値はNb$_{3}$Geの23.2 [K]であった.1986年,IBMのBednorzとMüllerがLa-Ba-Cu-O系酸化物で30 [K]近傍からの電気抵抗の急激な減少を報告した.その数か月後,ヒューストン大学のChuらによって,LaをYで置換したY-Ba-Cu-O系酸化物の$T_{\rm c}$が液体窒素温度77 [K]を超えることが発見された.77 [K]以上の$T_{\rm c}$を持つ超伝導体を使えば,電子デバイスや各種の電力用機器がそれまでの液体ヘリウムよりも安価で扱いやすい液体窒素によって使用可能となる.これによって酸化物超伝導体は一躍脚光を浴びることとなった.

Y-Ba-Cu-O系酸化物は当初幾つかの化合物からなる混合相であったが,その後YBa$_{2}$Cu$_{3}$O$_{7-\delta }$が超伝導物質であり,その$T_{\rm c}$は90 [K]であることが明らかになった.層状ペロブスカイト構造を基本とする酸化物超伝導体はその後も続々と発見されるとともに,$T_{\rm c}$の値は更新を続け,Bi-Sr-Ca-Cu-O系(115 [K]),Tl-Sr-Ca-Cu-O系(125 [K]),Hg-Ba-Ca-Cu-O系(圧力下157 [K])などが発見された.図13にYBa$_{2}$Cu$_{3}$O$_{7-\delta }$$\delta = 0$)の結晶構造を示す.

超伝導という現象は,抵抗ゼロ,マイスナ−効果,磁束の量子化,ジョセフソン効果などという目ざましい特徴を持つ.マイスナ−効果は,「超伝導体を磁場 $\mbox{\bfseries\itshape {H}}$のなかに置くと,その物体の内部での磁束密度 $\mbox{\bfseries\itshape {B}}$がゼロとなる」現象をさす.すなわち,磁化を $\mbox{\bfseries\itshape {M}}$とおくと,

$\displaystyle \mbox{\bfseries\itshape {B}} = \mbox{\bfseries\itshape {H}} + 4\pi \mbox{\bfseries\itshape {M}} = 0,$     (8.30)

を満たす.上式より超伝導体の帯磁率は,
$\displaystyle \chi = -\frac{1}{4\pi},$     (8.31)

となる.これを完全反磁性という.超伝導内部で$B = 0$となるのは外部磁場を打ち消すように超伝導体の表面に電流が流れるからである.

マイスナ−効果をYBa$_{2}$Cu$_{3}$O$_{7}$焼結体を試料に用いて眺めてみよう.また時間があれば $0 \leq \delta < 1$の試料に対しても実験を行い,酸素濃度に対してマイスナ−効果がどのように変化するかを捉えてみよう.


Masashige Onoda 平成18年4月7日