不飽和脂肪酸に酸素が反応してできる過酸化脂肪ラジカルなど,一般的に化学反応による劣化の速度定数,
は,図4.15に示すようなエネルギー状態を考えると,反応の活性化エネルギー
,
を用いることにより,
ラジカル濃度に対する一般解は,(4.5.3)と(4.5.4)式で与えられた.年代測定では,未知の年代におけるラジカル濃度(4.5.5)式がわかっており,その後のラジカル濃度の増大から,
,
,
を評価する必要がある.室温でのラジカル濃度の増大を検出することは通常は容易ではないので,温度を上昇させて化学反応の速度を早めることにより年代値を求める.実験室での温度上昇が,時間進行速度を加速する「タイムマシン」の役割をするわけである.新しい温度で反応定数が,
と
になったとする.(4.5.1),(4.5.2)式を新しい境界条件
,
の下で解くと
,
の大きさを変えた場合の例を,図4.16に摸式的に示した.
実際にはラジカル濃度の減衰は,(4.5.2)式のように単純とは限らないが,多くの場合,これらの式でその現象を説明でき,或る範囲内で年代値を求め得るものと考えられる.図4.16にラジカル量を,
で規格化して示す.
が十分に大きい場合,
はほぼ一定と考えてよい(
の減衰は無視できる).
の場合は単純な飽和曲線になる.ラジカル生成曲線の立ち上りから
が,飽和または減衰から
が求められる.
微分形表現は,放射平衡,永年平衡と考え方が同じであるがESRで検出できるのは,積分値の
のみであることに注意する必要がある.以下の各節では,代表的な例について,これらの式に基づいた考察を行う.