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: X線診断 : 過酸化脂肪ラジカル : ポテトチップス   目次

穀物,コーヒー豆

穀物中の植物性脂肪からも過酸化脂肪ラジカルが生じるので,ポテトチップスと同様のESR年代測定が可能である.図4.19(a)はブラジル産のコーヒー豆のESRスペクトルである.コーヒー豆はシルバースキンと呼ばれる部分に過酸化脂肪が生じやすく,味の劣化につながる.コーヒーの木より取りたての豆ではラジカル濃度ははとんどなく,Mn$^{2+}$等の信号が主体である.時間の経過と共にラジカル濃度が増大する.
図 4.19: (a)コーヒー豆のESRスペクトルと(b)等価線量(ED)と品質の相関.
\includegraphics[height=120mm,angle=90]{f10-5r.eps}

4.19(b)は,コーヒー豆の品質とラジカル濃度との相関を調べたもので,単にESR信号の絶対強度を取るのではなく,人為的な$\gamma$線照射で増大する信号強度から得た「等価線量(ED)」との相関を調べている.図から明らかなように,高品質のコーヒー豆ではEDが少なく,全脂肪に対する過酸化脂肪ラジカルの濃度が少ない.この他,茶の葉の品質とラジカル濃度の相関研究もなされている.

穀物については,年代測定にまでは至らないが,プレインカ(2000年前)のポップコーンと現在のポップコーンのESRスペクトルの比較研究がある.過去の温度,熱処理を調べようとする研究もあり,考古料学へのESR応用は今後急速に発展すると考えられる.

対象物内でラジカルが生成されるのであれば,それを利用することにより,歴史学,法医学等,様々な分野へのESR応用が可能となる.


Masashige Onoda 平成18年4月11日