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: 混合状態 : 第2種超伝導体 : の決定   目次

$H_{\rm c1}$付近における振舞い

外からの磁場をだんだん強くしていくと,第2種超伝導体では$H_{\rm c}$に達する前に$H_{\rm c1}$という磁場で超伝導体の中に常伝導の部分ができて,磁場はこの部分を通るようになって,内部に侵入する.そこでまず問題になるのは,この常伝導の部分はどのような形でできるかである. $\xi \ll \lambda$の極限の場合には,磁場の変化の様子はロンドン方程式に従うので,エネルギーの計算をすると,常伝導の部分は太さが$\xi$の程度の1本の線の形になることが確かめられる.すなわち直径$2\xi$の円筒の中が常伝導になり,そこでは $\vert\Psi\vert^{2} = 0$であり,外では超伝導状態で$\vert\Psi\vert^{2}$はその温度での熱平衡値 $\vert\Psi_{0}\vert^{2}$に等しい.磁場$H$は円筒の中心で最大で,それから$\lambda$の程度離れるとゼロに近づく.

こういう線状の常伝導の部分を作るのに必要なエネルギーは,$r > \xi$の超伝導の部分では磁場のエネルギー $\int\frac{H^{2}}{8\pi}{\rm d}V$と,この磁場のために誘起される電流のための運動エネルギー $\int\frac{1}{2}mv^{2}n_{\rm s}{\rm d}V = \int\frac{1}{2}\frac{m}{n_{\rm s}e^{2}}j^{2}{\rm d}V$の和となり,常伝導の部分におけるエネルギーの増分は, $\xi \ll \lambda$でその部分の体積が小さいから無視できる.上のエネルギーの和は,$j$に対してマクスウェルの式を用いると

$\displaystyle I = \frac{1}{8\pi}\int\left(H^{2} + \lambda_{\rm L}^{2}\vert{\rm ...
...,\ \ \ \lambda_{\rm L} = \left(\frac{mc^{2}}{4\pi n_{\rm s}e^{2}}\right)^{1/2},$     (7.10.59)

と書ける.ロンドン方程式を用いて磁場 $\mbox{\bfseries\itshape {H}}$の空間変化の様子を決め,(7.10.8)式を計算すると
$\displaystyle I \simeq \left(\frac{\varphi}{4\pi\lambda_{\rm L}}\right)^{2}{\rm ln}\left(\frac{\lambda}{\xi}\right),$     (7.10.60)

となる.ただし$\varphi$は,この常伝導の部分について入りこんだ磁束全体の値である.すなわち
$\displaystyle \varphi = \int_{0}^{\infty}H(r)2\pi r{\rm d}r,$     (7.10.61)

で与えられる.

さてGL方程式(7.5.5)式において

$\displaystyle \Psi = \Psi_{0}{\rm e}^{{\rm i}\phi(r)},$     (7.10.62)

とおくと,
$\displaystyle \mbox{\bfseries\itshape {J}}(\mbox{\bfseries\itshape {r}}) = \lef...
...i - \frac{4e^{2}}{mc}\mbox{\bfseries\itshape {A}}\right)\vert\Psi_{0}\vert^{2},$     (7.10.63)

と書ける.(7.10.12)式を$r \gg \lambda$であるような大きな円周$c$に沿って積分をする.そこでは $\mbox{\bfseries\itshape {J}}(\mbox{\bfseries\itshape {r}}) = 0$であるから
$\displaystyle \int_{c}{\rm d}\mbox{\bfseries\itshape {s}}\left(\hbar{\rm grad}\phi - \frac{2e}{c}\mbox{\bfseries\itshape {A}}\right) = 0,$     (7.10.64)

となり,また第2項の積分はストークスの定理を用いて
$\displaystyle \int_{c}\mbox{\bfseries\itshape {A}}\cdot{\rm d}\mbox{\bfseries\i...
...t}\mbox{\bfseries\itshape {A}}\right)_{\rm n}{\rm d}S = \int H_{\rm n}{\rm d}S,$     (7.10.65)

と書ける.一方(7.10.13)式の第1項はすぐに積分でき, $\int_{c}{\rm grad}\phi\cdot{\rm d}\mbox{\bfseries\itshape {s}} = [\phi]$は円周を1周したときの$\phi$の増分に等しくなる.ところが(7.10.11)式は $\mbox{\bfseries\itshape {r}}$の1価関数であるから,円周を1周したとき元の値に戻らねばならない.したがって ${\rm e}^{{\rm i}\phi} = 1$となり
$\displaystyle [\phi] = 2\pi n,\ \ \ n = 0, 1, 2, \cdots$     (7.10.66)

となる.(7.10.14),(7.10.15)を(7.10.13)式に代入すると,超伝導体を貫く磁束$\varphi$
$\displaystyle \varphi = \frac{c\hbar}{2e}2\pi n = \frac{ch}{2e}n,\ \ \ n = 0, 1, 2, \cdots$     (7.10.67)

というとびとびの値しかとれないことがわかる.言い換えれば,磁束は
$\displaystyle \varphi_{0} = \frac{ch}{2e} = 2\times10^{-7}\ [{\rm G cm^{2}}],$     (7.10.68)

を単位として量子化されていることになる.これを磁束の量子化という.

(7.10.9)式の$\varphi$も量子化されているが,エネルギーが$\varphi^{2}$に比例しているから, $\varphi = 2\varphi_{0}$になるよりも, $\varphi = \varphi_{0}$の磁束を2本作った方がエネルギーは低いことになる.つまり,外からの磁場が$H_{\rm c1}$を少しこえて,磁場が超伝導体中に入り込むときは,(7.10.17)式の$\varphi_{0}$という磁束をもった1本の線として入り込むことになる.

次にこの$H_{\rm c1}$の値がどのくらいになるのかを考える.いま外から適当な磁場がかかって,超伝導体内に単位面積あたり$n$本の磁束線ができたとする.$n$が十分小さくて,磁束線の間の相互作用を考えなくてよいときは,磁束線を作るのに必要なエネルギーは(7.10.9)式の$I$$n$倍である.一方,このときの磁束密度は$n\varphi_{0}$になるから,磁気的なエネルギーは $\frac{1}{4\pi}n\varphi_{0}H$だけ下がる.すなわち全体としては

$\displaystyle E = nI - \frac{1}{4\pi}n\varphi_{0}H,$     (7.10.69)

となる.これは全体として$n$に比例するから$n$の係数が負になれば,こういう磁束線がどんどんできることになる.すなわち $I < \varphi_{0}H$のときは,$n = 0$より$n \ne 0$の方がエネルギーが低く,磁束線が数多くできることになる.ただし$n$が大きくなると,磁束線の間に相互作用が働くので,$n$は有限の値に抑えられる.いずれにせよ
$\displaystyle H > H_{\rm c1} = \frac{4\pi I}{\varphi_{0}} = \frac{\varphi_{0}}{4\pi\lambda^{2}}{\rm log}\frac{\lambda}{\xi},$     (7.10.70)

になると磁束線ができはじめる.

$H_{\rm c1}$$H_{\rm c}$とを比べるため, $T = 0\ [{\rm K}]$とし, $\xi_{0} = \frac{\hbar v_{\rm F}}{\pi\Delta}$ $\frac{H_{\rm c}^{2}}{8\pi} = \frac{1}{2}N(0)\Delta^{2}$を用いると

$\displaystyle \frac{H_{\rm c1}}{H_{\rm c}} = \frac{\pi I}{\sqrt{24}}\frac{\xi}{\lambda}{\rm log}\frac{\lambda}{\xi},$     (7.10.71)

となる.したがって $\lambda \gg \xi$である超伝導体では, $H_{\rm c1} \ll H_{\rm c}$で,熱力学的な臨界磁場に達する前に,一部分が常伝導になり磁場が中に入り込むようになる.このような状態が$H_{\rm c2}$まで続き,この$H_{\rm c1}$$H_{\rm c2}$の間の状態を混合状態と呼ぶ.
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Masashige Onoda 平成18年4月7日