用語解説

「量子センシング」


量子的な性質を活用して、物理量の測定精度または測定感度を向上させるセンシング手法。例えば微弱な静磁場、交流磁場を高い感度で検出することが可能となります。


ダイヤモンドNV(窒素-空孔)センター」


DiamondNV

炭素原子からなるダイヤモンド結晶中の格子点の一つが窒素原子Nと入れ替わったNと、炭素原子Cが抜けた空孔Vとが隣接する複合欠陥。この複合欠陥が電子を捕獲した状態は、ユニークな量子スピン状態をもち、周囲の静磁場、交流磁場の影響を敏感に受けて変化します。   


「量子コヒーレンス」


スピン状態の量子的干渉性が維持されることを量子コヒーレンス、量子的干渉性が維持される時間をコヒーレンス時間といいます。一般に、コヒーレンス時間が長いほど量子センシングの感度が向上します。    


シリコン電界効果トランジスタ (Si MOS-FET)   

2D-Structures-SiMOS

Si基板上に酸化膜を形成しその上にゲート電極を形成します。上図のようにp基板を用いてゲート電圧を印加すると、もともとp型だったゲート下の部分がn型になり二次元電子が生成され、ソース-ドレイン間に電流が流れるようになります。この電子が生成された領域を「反転層」と呼びます。このようにゲート電圧によりソース-ドレイン間を流れる電流をコントロールし、ON/OFFのスイッチングを行います。


GaAs/AlGaAs単一ヘテロ接合 高移動度電界効果トランジスタ(HEMT)

2D-Structures-SHJ


ポテンシャルの大きいAlGaAsバリア層にSiをドープして電子を供給し、ポテンシャルの低いGaAs層に流れ込んだ電子がAlGaAsとGaAsの界面に二元電子系を形成します。この手法を変調ドープといいます。二次元電子系とSiドープ層は非ドープAlGaAs層の厚さだけ離れているため、高い移動度の二次元電子系を得ることができます。高い移動度を持つ、すなわち電子のスピードの速い単一ヘテロ接合電界効果トランジスタは、マイクロ波帯の増幅に使われています。


ゲート付きGaAs/AlGaAs非ドープ量子井戸  

2D-Structures-undopedQW



GaAs/AlGaAs非ドープ量子井戸構造にオーミック電極を作製し、裏面のn型GaAs層との間にゲート電圧を印加します。その結果、量子井戸層に二次元電子系が生成されます。この構造を用いると、電子散乱の要因となるドーパント層がないために低電子密度領域で高い電子移動度を得ることが可能となります。[Y. Hirayama et al., Appl. Phys. Lett. 72, 1745 (1998); S. Nomura et al., Phys. Rev. B 76 (20) R201306 (2007). ]



「二次元電子系」

自由度が二次元である電子系を二次元電子系と呼びます。二種類の半導体、例えばAlGaAsとGaAsの界面(ヘテロ接合)、もしくは半導体と絶縁体の界面、例えばシリコンと石英との界面(シリコン金属・酸化物半導体電界効果トランジスタ、Si-MOSFET)、および遷移金属ダイカルコゲナイドのような原子層物質に二次元電子系が形成されます。パソコンやスマホの中にも二次元電子系を活用した素子が使われ、私達の生活を豊かなものとしています。

なぜ、二次元電子系を研究するのでしょうか?それは二次元には他の次元にない特別なことがいろいろ起こるからです。たとえば、二次元面には”表”と”裏”があります。そのため、二つの粒子を交換するにあたって3次元と違って”右回りに交換する”、”左回りに交換する”の2種類の方法が区別されます。このことからフェルミオンでもボソンでもない”エニオン”という粒子が二次元系に存在することが導かれます。さらにこの粒子(準粒子)は電荷がなんと素電荷eの整数分の1、すなわち分数電荷をもつことが知られています。物性実験では、実際にこの奇妙な粒子である”エニオン”の存在を確かめることができます。素粒子の分野では分数電荷をもつ粒子としてクォークが知られていますがクォークは決して単体では観測されませんし、クォークからなる複合粒子は素電荷eの整数倍の電荷しかもちません。分数電荷の粒子が観測される二次元電子系はとても特異な系であるとことがわかります。もちろん分数電荷は二次元電子系の内にしか存在せず、単体で試料の外に取り出すことは不可能です。その点はクォークと似ています。

また、二次元電子系には、他に電子状態密度がフラットであるという性質があります。この単純な性質がいろいろと面白い現象につながります。負の電荷をもつ電子がたくさんあるところに正の電荷をおくと、そのまわりにクーロン引力で電子が集まってきます。このことをスクリーニングといいます。三次元では電子がたくさんあればある程、正の電荷のまわりに集まってくる電子の数は多くなります。しかし、二次元では正の電荷のまわりに集まってくる電子の数は電子の密度に関わらずに一定となります。


「ランダウ準位」

ベクトルポテンシャルAの磁場中の質量m*運動量pの電子のハミルトニアンは

Hamiltonian-A

で与えられます。これは量子力学で習う調和振動子と同じように解くことができて固有エネルギーEN

Eigenenergy

と与えられます。ここでNはランダウ指数

Cyclotron

は磁場に比例するサイクロトロンエネルギーです。このように等間隔のエネルギースペクトルとなります。

Landau-fan-diagram

このランダウ準位は上図のように発光スペクトルとして実際に観測することができます。[Phys. Rev. B 87, 085318 (2013)]

ここで、電子密度をns、単位面積あたりの磁束量子

Fluxquantum

の本数を

numberoffluxquantum

とすると、ランダウ準位電子占有率は

nu

で与えられます。つまり、ランダウ準位電子占有率とは電子の数と磁束量子の本数の比のことです。





「近接場走査型光学顕微鏡 (NSOM)

近接場走査型光学顕微鏡(NSOM; near-field scanning optical microscope)は、光の波長よりも小さい穴や球のまわりに局所的に発生する光を用いて、光の回折限界以下のものを観察する走査プローブ顕微鏡の一種です。NSOMの性能を決める最も重要な要素が近接場プローブです。私たちは、光の照射と集光の両方に使用可能である微小開口を有する光ファイバプローブを用いる方式を用いています。集束イオンビーム(FIB; focused ion beam)加工観察装置を用いて先端の金薄膜の一部を切除することにより、左上の電子顕微鏡写真のように近接場プローブ先端部分に真円に近い直径約100 nmの開口部を作製しました。この私達の開発したNSOMは、従来困難であった円偏光を出射することを可能としました。


NSOM-probe




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