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: 磁気構造による分類 : 磁性体の分類 : 磁性体の分類   目次

磁化および帯磁率の温度変化による分類

磁性体は温度上昇によって,構成磁気原子の磁気配列の乱れが増し,外部磁場に対する応答が変わるので,磁化$M$や帯磁率$\chi$は一般に温度変化をする.その代表的な幾つかの種類の$M$$\chi$の温度変化の様相を示しながら,その原因となる磁気構造に対する分類を行う.図4に代表的な磁性体についての帯磁率$\chi$またはその逆数$1/\chi$,自発磁化$\sigma $の温度変化の概略を示す.
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図 4: 帯磁率あるいは磁化の温度変化の例
[パウリ常磁性($\zeta _{0}$ = 化学ポテンシャル)]\includegraphics[height=6cm]{paulisus.eps}          [強磁性($\sigma _{0}$ = 絶対零度の自発磁化の大きさ)]\includegraphics[height=6cm]{fsus.eps}
[反強磁性]\includegraphics[height=6cm]{afsus.eps}          [フェリ磁性]\includegraphics[height=6cm]{ferrisus.eps}

(1) 常磁性

$M = \chi H$で表される常磁性の$\chi$は2種類に大別される.一つはキュリー型の常磁性で,特にイオン結晶や絶縁体にしばしば現れ,$\chi$はほぼ

$\displaystyle \chi = \frac{C}{T},$     (1.5)

の温度依存性を持つ.したがって,帯磁率の逆数$1/\chi$$1/C$の勾配を持つ直線となる.$C$キュリー定数と呼ばれ,磁性原子の持つ固有の磁気モーメントの2乗に比例する.

他方,多くの金属・合金においては,図4(a)のようにその値が小さく,化学ポテンシャルより十分低い温度領域で温度にあまり依存しない$\chi$が現れる.これは結晶内を動き回っている電子に由来するもので,パウリの常磁性と呼ばれる.

(2) 強磁性

4(b)に示すように,キュリー点以下($T < T_{\rm C}$)で自発磁化$\sigma $を発生する.$T > T_{\rm C}$では常磁性であり,$\sigma = 0$$T > T_{\rm C}$では

$\displaystyle \chi = \frac{C}{T - \Theta}     (\Theta \approx T_{\rm C}),$     (1.6)

の温度依存性を示す.$T = T_{\rm C}$$\chi$は発散(すなわち$1/\chi = 0$)する.高温で$1/\chi$は直線性を示し,これをキュリーワイス型と呼ぶ.$C$は常磁性の場合と同じ意味を持つ.高温の$1/\chi$の直線のゼロを切る温度を$\Theta $として,これを常磁性キュリー点と称し,$\Theta $は一般に$T_{\rm C}$よりも僅かに高い.つまり,$T_{\rm C}$近傍では上記のキュリーワイス則には従わない.なお,金属性物質に現れる強磁性の中には,$T > T_{\rm C}$$\chi$は上式のキュリーワイス型を持つが,$C$は磁気モーメントの大きさに関係のないものもあるので注意を要する.

(3) 反強磁性

この物質では観測される磁化は$M = \chi H$で常磁性的であるが,$\chi$はある温度$T = T_{\rm N}$でピークを示す(図4(c)).$T_{\rm N}$ネール点と名づけられ,この温度以下では,磁気モーメントが結晶の中でお互いに逆に向いて整列している反強磁性状態が発生している.$T > T_{\rm N}$$\chi$は,上式のキュリーワイス型を持つが,$1/\chi$の延長から求められる$\Theta $は一般に負温度である.磁性原子を含む希薄合金の中には,$\chi$が弱磁場で鋭いピークを持つが,低温側で反強磁性磁気配列をもたないスピングラスとよばれる物質もある.

(4) フェリ磁性

強磁性体と同様,$T_{\rm C}$以下で自発磁化$\sigma $を発生する.$\sigma $の形状は通常の強磁性のそれと異なることもある.$T > T_{\rm C}$$1/\chi$は直線的ではなく,図4(d)のように上方に凸な双曲線的形状を示し,$T = T_{\rm C}$$1/\chi = 0$である.この双曲線の漸近直線は,反強磁性の場合と同様,一般に$\Theta < 0$の値を示す.

(5) 反磁性

反磁性は磁性原子を含まないイオン結晶(NaClなど)や共有結合物質(Geなど),半金属(SbやBi),そして若干の金属合金にも現れる.一般にその絶対値($\vert\chi\vert$)は小さく,温度変化も少ない.例外として完全反磁性を示す超伝導体においては,外部磁場を試料の中に入れないことにより通常の反磁性の$10^{4}$$10^{5}$倍大きい反磁性帯磁率が現れ,超伝導状態の消滅する温度$T_{\rm c}$$\chi$は急激に小さくなる.


Masashige Onoda 平成18年4月7日