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完全流体の運動

流体が運動しているときは流体の速度$v$が重要になる.$v$は,位置($x$$y$$z$)と時間$t$の関数である.流れのいたるところで$v$$t$によらない流れは定常流と呼ばれる.

各点の$v$を表す矢印をたくさん描くと,矢印は連なって一群の曲線ができる.これらの曲線の接線がそこの$v$と一致する.このような曲線を流線という.

流体が運動しているときには接線応力が現れる.粘っこい流体ほど大きな接線応力が生じるので,この性質を粘性という.ここでは粘性の無視できる理想的な流体,すなわち,完全流体を扱う.完全流体は運動していても,静止流体と同様に,面に垂直な圧力しかはたらかない.

6.7のように,定常流の中に多数の流線によって囲まれた管(流管)を考えよう.

図 6.7: 定常流の中の流管
\includegraphics[scale=0.8, clip]{fig-6-5-1.eps}
定常流であるから流管は動かず,一つの流管内の流体は管内を動くだけで管外に出ることはない.断面Aにおける流体の密度,速さ,断面積を,それぞれ$\rho $$_{\rm A}$$v$$_{\rm A}$$S$$_{\rm A}$,断面Bにおけるそれらを$\rho $$_{\rm B}$$v$$_{\rm B}$$S$$_{\rm B}$とおく.$\Delta$$t$時間後に断面Aにあった流体が断面A$'$に,断面Bにあった流体が断面B$'$に移動したとする.$\Delta$$t$の間にAとBの断面で区切られた部分では,$\rho $$_{\rm A}$$v$$_{\rm A}$$S$$_{\rm A}$$\Delta$$t$だけの質量の流体が入り込み,$\rho $$_{\rm B}$$v$$_{\rm B}$$S$$_{\rm B}$$\Delta$$t$だけの質量の流体が出ていったことになる.この部分の質量は定常流なら一定でなければならないので,流入量と流出量は等しいはずであるから,
$\displaystyle \rho_{\rm A}v_{\rm A}S_{\rm A}
=
\rho_{\rm B}v_{\rm B}S_{\rm B},$      

となる.AとBは流管内の任意の断面であるから,
$\displaystyle \rho vS
=
{\rm const},$     (6.5.11)

という関係が成り立つ.これを連続の方程式といい,流体における質量の保存を表している.縮まない流体なら密度$\rho $は一定であるから,$vS$ = 一定となる.

縮まない完全流体による定常流について,エネルギーの関係を考える.図6.8のように,一つの細い流管に沿って任意の2点A,Bをとり,それらの高さを$z_{\rm A}$$z_{\rm B}$,圧力を$p_{\rm A}$$p_{\rm B}$とおく.

図 6.8: 縮まない完全流体による定常流に関するエネルギーの関係
\includegraphics[scale=0.8, clip]{fig-6-5-2.eps}
AB間にある流体が$\Delta t$だけ時間がたって,A$'$B$'$間に移動するとすると,その間に流体に対してなされる仕事$\Delta W$は,
$\displaystyle \Delta W
=
p_{\rm A}S_{\rm A}v_{\rm A}\Delta t - p_{\rm B}S_{\rm B}v_{\rm B}\Delta t.$     (6.5.12)

$\Delta t$の間にAB間に含まれる流体の力学的エネルギーはA$'$B$'$間に含まれる流体の力学的エネルギーへ増加し,増加分$\Delta E$$\Delta W$に等しくなければならない.定常流であるから,重複しているA$'$B間の部分で何も変化せず,$\Delta E$はBB$'$間とAA$'$間に含まれる流体の力学的エネルギーの差ということになる.
$\displaystyle \Delta E
=
\rho v_{\rm B}S_{\rm B}\Delta t \left ( {1 \over{2}} v...
...m A}S_{\rm A}\Delta t \left ( {1 \over{2}} v_{\rm A}^{2} + gz_{\rm A} \right ),$      

において$v$$_{\rm A}$$S$$_{\rm A}$ = $v$$_{\rm B}$$S$$_{\rm B}$を考慮すると,
$\displaystyle p_{\rm A} + {\rho \over{2}} v_{\rm A}^{2} + \rho gz_{\rm A}
=
p_{\rm B} + {\rho \over{2}} v_{\rm B}^{2} + \rho gz_{\rm B},$      

が成り立つ.すなわち,1本の流線に沿って次の関係が得られる.
$\displaystyle p + {1 \over{2}} \rho v^{2} + \rho gz
=
{\rm const}.$     (6.5.13)

これはベルヌーイの定理として知られている.

6.9のように,容器内の液体が下の小さな孔から流れ出す場合を考えよう.

図 6.9: 容器内の液体が下の小さな孔から流れ出す場合
\includegraphics[scale=0.8, clip]{fig-6-5-3.eps}
短い時間内では液面の高さは変わらずそこの流速は0で定常流と見なせる.孔と液面の距離を$h$,液体の流出する速さを$v$とすると,液面でも孔の位置でも圧力は大気圧$p_{0}$に等しいので,ベルヌーイの定理により,
$\displaystyle p_{0} + \rho gh
=
p_{0} + {1 \over{2}} \rho v^{2},$      

が成り立つ.これから,
$\displaystyle v
=
\sqrt{2gh},$     (6.5.14)

が得られる.この関係をトリチェリの定理という.孔から流れ出す液体の速さは,$h$の高さだけ自由落下したときの質点の速さに等しい.

飛行機の翼の断面を図6.10に示す.上面が下面に比べて少し膨らんでいる.上面に沿って流れる気流は翼を避けるために狭い道を通るので,速さは下面のそれに比べて大きくなる.このために下面の圧力は上面に比べて大きくなる.これが揚力を得る主な原因の一つとなっている.

図 6.10: 飛行機の翼の断面
\includegraphics[scale=0.7, clip]{fig-6-5-4.eps}

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Masashige Onoda 平成18年4月15日