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: 研究内容 : 遷移金属酸化物と構造・物性研究 : イオンバッテリー系 場合によっては超伝導関連系

新物質開発 -- 高温超伝導関連系

結晶構造も化学組成も新しい物質を合成するのはなかなか難しい.何らかの指針にしたがって新物質を合成しようと試みてスムーズに成功するのは稀で,たいていは先人の残した膨大な物質の混合物になってしまう.一方で自分が予測した物質とは結晶構造がまったく異なり,単相に近い物質が得られることもある.

高温超伝導体の発見は,既知物質ではあるがその電子状態が解明されていなかったぺロブスカイト型物質を合成したところ,実際には既知物質とは異なる別の既知物質が不純物としてできて,それが高温超伝導的兆候(抵抗ゼロにはならない)を示したところにある.この段階では研究者は初期目的物質が高温超伝導体的な性質を示すと考えていた.その後は世界的な研究に発展し,超伝導性を示す物質はK$_{2}$NiF$_{4}$型であることがわかり,その結晶構造の特殊性を念頭に次々と新超伝導物質が合成されその転移温度は130 [K]に上昇した.このような爆発的研究が最短のノーベル賞受賞を可能にさせたといえる.

あっと驚くような新物質は,たいていの場合その近傍にまったく異なる性質をもった物質があって,それを解明すべく種々の元素置換を行った結果発見されるようである.本研究グループで発見されたCdVO$_{3}$の強磁性も似たような状況下から生まれたもので,興奮気味に研究を進めていた.合成した物質が目的とするものとまったく異なる回折パターンを示したからといってがっかりすることはない.それが新しい道を切り開くことになるかもしれないのだから$\cdots$

最近Na$_{x}$CoO$_{2}\cdot y$H$_{2}$O系の超伝導( $T_{\rm c} \simeq 5$ [K])が物質・材料研究機構で発見された.本系は,前節で述べた二次電池用正極活物質のナノシート化を実現すべく研究していた過程で発見されたと思われる.その結晶構造は図2と似たCoイオンの三角格子で表される.$x = 0$ではCo$^{4+}$ (3d$^{5}$)となり,この状態がモット絶縁体であるならば,強い結晶場のもとでは $S = \frac{1}{2}$の三角格子・量子スピン系とみなすことができる.$x \ne 0$では$x$個の電子がドープされることになり,銅酸化物の高温超伝導相との比較は非常に興味深い.二次元幾何学的フラストレーション系における超伝導の発見は,新物質探索研究の重要性を如実に示している.


Masashige Onoda 平成18年4月10日