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イオンバッテリー系 -- 場合によっては超伝導関連系

1800年にボルタ電池,1859年に鉛蓄電池,1883年に酸化銀電池,1888年に今日のマンガン乾電池の原型とされるルクランシェ電池,そして1899年にニッケルカドミウム二次電池が現れた.今日実用化されている電池のほとんどが19世紀に登場したものであることに驚かされるだろう.20世紀に発明された実用電池としては,水銀電池,リチウム電池など数種の一次電池を数えるのみで,汎用二次電池となると新しいものの登場はなく,電池の進歩は非常にゆっくりしたものであったといえる.

ところが1980年代に入ると,電池を取り巻く環境が大きく変化しはじめた.ポータブル型のオーディオヴィジュアル機器が普及し,その電源としての電池の重要性がそれまでになく大きくなった.ポータブル機器の小型軽量化はますます進み,電池に対しても「小さく,軽く」という要求が強くなった.もう一つの大きな変化は地球環境に対する関心の高まりである.環境問題は,有害物質に対する規制資源の有効利用という二つの側面をもっている.前者に対する電池の取り組みの代表的な例は,円筒形のマンガン乾電池やアルカリマンガン乾電池の無水銀化である12.また,使い捨ての一次電池を多量に使うことは資源面からは好ましくないという考えが次第に強まり,ポータブル電子機器用電源の二次電池化が積極的に進められるようになった.一般に利用可能な二次電池として,鉛蓄電池とニッケルカドミウム二次電池があったが,両者ともエネルギー密度や環境問題の点で泣き所があった.

図 5: イオンバッテリーの基本原理
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このような背景から,高エネルギー密度を有し,かつ環境に優しい二次電池の登場を待望する声が高まると,電池開発研究が精力的に行われるようになった.その結果,1990年頃を境にして新型二次電池が登場し始め,ニッケル水素二次電池とリチウムイオン二次電池の二つが新たに実用化されるに至った.

金属リチウムを負極とする電池は,コイン型リチウム一次電池で馴染み深い.金属リチウムの標準単極電位は$-3.01$Vであり,また原子量は6.941と非常に小さいため,これを負極とすることによって電池特性を高くでき,このことがリチウムイオン二次電池を望む声を高めた.正極に種々の活物質(金属酸化物や硫化物など)を利用できるが,炭素材料単体を負極とする電池では,正極に用いることのできる化合物は,LiCoO$_{2}$,LiNiO$_{2}$13,LiMn$_{2}$O$_{4}$14などのリチウム複合酸化物に限定される.これらの化合物は層状構造を有しており,炭素と同様にリチウムをドープ・脱ドープできる.したがって,リチウム複合酸化物正極--炭素負極からなる二次電池では,リチウムは充放電に伴って正極と負極の層間を行き来するだけということになる.このようなタイプの電池はロッキングチェア型電池,あるいはスウィング電池などと呼ばれる.正極にLiCoO$_{2}$を用いたリチウムイオン二次電池の原理を図5に示す.

リチウムイオン二次電池の今後の問題としては,(1) LiCoO$_{2}$に使用しているコバルトは資源的に限りがあり,価格も高いため,LiNiO$_{2}$,LiMn$_{2}$O$_{4}$等への変換;(2) イオン伝導率の高い非水電解液,あるいは高分子固体電解質の開発;(3) 負極材料の改良;(4) Liを高濃度にドープ・脱ドープできる正極材料の開発,等が挙げられよう.


Masashige Onoda 平成18年4月10日