遷移金属酸化物の結晶構造は,中心に遷移金属原子が位置する酸素八面体,ピラミッド(図1)あるいは四面体などをユニットとした連結構造によって表され,それには単純なものから長周期・変調構造を導く複雑なものまで多くのパターンが存在する.ここで酸素多面体連結構造において遷移金属原子の作るネットワークに着目すると,それらが低次元的に連結している場合がある.たとえば,図2はLiVOの高温相の結晶構造2であり,図2(a),図2(b)はそれぞれVO
八面体を用いた六方晶的傾角図およびV
O結合を陽に示した擬立方晶的傾角図を表す.Vイオンの連結の様子を見ると図2(c)のように三角格子を形成している3.本物質はスピン
の反強磁性相互作用を持つ磁性体であり,
[K]で二次元的三量体を形成し,スピンギャップ状態に転移する.一次元磁性体4の磁化の温度依存性は,ある特徴的な温度で極大値を伴い絶対零度で有限の値を示すが,これはスピン液体とみなされる5.伝導性が増加し一次元電気伝導体となれば,電子格子相互作用によりある温度で絶縁体に転移する.
[] ![]() ![]() ![]() |
酸化物のこれら多種多様な性質は酸素多面体ユニット内の電子軌道とその間の結合性に起因し,それに応じて電子状態の性格が変わる.すなわち,物質の性質を特徴づける三つの要素;電子遍歴性・局在性,電子格子相互作用,電子相関の大小が変化する.電子相関の物理は古くから研究されていたが,高温超伝導体の発見によりその重要性が再認識され,現在の研究の主流のひとつになっている.これに対して(強い)電子格子相互作用の物理は未知なる部分が多い.上の要素に加えて,原子の欠損や部分置換がつくる乱雑性等の問題もある.
このように酸化物の研究は基礎研究を見ただけでも多彩で,様々な分野において新しい興味深い現象が次々に生まれている.何が起こるのか,本当にわからない.1986年以前に,今では常識となった100 [K]を越える臨界温度を持つ超伝導物質の存在を,どれだけの人が予想していたであろうか?6一方で既に解決したかに思われた現象が,現在新しい視点から再検討されつつある.
磁性物性グループによる,酸化物を対象にした研究の一端を図3に示す.この図に沿って,以下で内容を簡単に紹介しよう.
![]() |