: 理論の本質
: 磁性の基本的理論と実験
: 強磁性と電子の軌道
目次
キュリー温度以下では電子スピンは整列しているが,完璧に整列する温度は絶対零度である.言い換えれば,絶対零度ではスピンが全部上向きだったのに,温度が上がるにつれて下向きのスピンが増えてくる.それだけ全体としての自発磁化は弱くなる.スピンの向きが上下同数になる温度がキュリー温度で,ここで自発磁化は消失する.
CdVOを例に2.9,自発磁化と温度との関係を図2.7に示そう.キュリー温度以上では,電子スピンの向きがバラバラになり,そのような状態の示す磁性が常磁性である.強磁性から常磁性に移る境目が,キュリー温度に当たるとみてよい.
鉄などの強磁性体に自発磁化があるならば,その辺にある普通の鉄棒でも,自然に磁石になっているはずなのにそうはなっていない.実は,上で説明した自発磁化は,以前に述べた一つのミニ磁石からの寄与に相当している.このミニ磁石は磁区と呼ばれる.強磁性体は磁区の集まったもので,しかも各軸のN・S極の方向はバラバラである.したがって強磁性体全体としては,磁石の働きはできない.外部から磁場が加えられてはじめて,各磁区の向きが磁場の方向に変わるのである.
Masashige Onoda
平成18年4月11日