遷移金属ダイカルコゲナイド電界効果トランジスタ

                        Transition metal dichalcogenides FET


グラフェンは、カーボン原子が蜂の巣構造にならんだ厚さが原子層数層の二次元シートです。ブリルアンゾーンにディラックコーンと呼ばれるバンドギャップのない線形のバンド分散を持っています。Novoselov等によってスコッチテープを用いて原子層オーダーに剥離する方法が示されてから研究が活発に進められています。


Graphene-lattice-and-band


Novoselov等の研究をきっかけに、さまざまな層状物質に対して同様の方法で原子層オーダーの薄膜が作製されています。代表的な物質が遷移金属ダイカルコゲナイドと呼ばれる物質で、遷移金属元素M (Mo, W, Nb等)と2個のカルコゲナイドX (S, Se, Te)が結合した物質です。例えば図に示すように(MoS2)では蜂の巣構造が2種類の元素(Mo, S)から構成され、空間反転対称性が破れています。その結果、バンドギャップが開きます。 

MoS2-lattice-and-band

この有限の大きさのバンドギャップにより、グラフェンでは実現できない光デバイスや電界効果トランジスタ(FET)が作製されています。既にマイクロプロセッサが試作されています。可視光領域の発光素子、光検出器が作製され、微弱光領域で高い光感度が示されています。大きなバンドギャップのために高い電流on/off比のMoS2 FETが実現されています。さらに遷移金属ダイカルコゲナイドは重い元素を含むため、スピン軌道相互作用が大きいといった特徴があります。バレーホール効果等を活用したスピントロニクスデバイスへの応用が期待されています。このように、遷移金属ダイカルコゲナイドは従来見られなかった興味深い新規物理現象の研究対象であるとともに、原子層オーダーの微小な光デバイス、電子デバイスとしての新たなアプリケーションが期待されています。

私たちは、MoS2をh-BNで挟むことにより、環境の擾乱を受けにくい電界効果トランジスタを作製することに成功しました。このMoS2電界効果トランジスタの光応答特性を調べたところ、従来の構造の素子と比較して大きな光応答を示すことがわかりました。[https://doi.org/10.7567/JJAP.57.045201 ]


MoS2FETs


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