近接場プローブマッピング: 波長より小さいものを見る

通常、光で観測する際の分解能は光の波長程度で制限されます。この限界を越えるのが近接場光学顕微鏡(NSOM)です。これは、光の波長よりも小さい穴や球のまわりに局所的に発生する光を用いて、光の回折限界以下のものを観察する走査プローブ顕微鏡の一種です。私たちは、希釈冷凍機温度磁場中で動作可能な近接場光学顕微鏡を新たに開発しました。このシステムを用いて、半導体ヘテロ接合素子の試料端に形成されるとされるカイラル端状態の可視化が初めて可能となりました。この研究成果は、円偏光を用いたスピン注入、スピントロニクス素子等の評価に生かされると期待されます

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図1 希釈冷凍機温度強磁場中近接場光学顕微鏡









図2 近接場プローブの走査型イオン励起二次電子(SIM)像。


図1に近接場光学顕微鏡の全体像を示します。この顕微鏡の心臓部が図2に示す近接場プローブです。中央部に見える突起が近接場プローブです。中央の突起の先端に白く見えるのが約100 nmの開口部です。ここから近接場光を試料に照射します。分解能は波長ではなくこの開口部の直径で決まります。最小で30 nm程度まで小さくすることが可能です。 <tulips>


図3 半導体ヘテロ接合素子の試料端に形成されるとされるカイラル端状態の可視化のための測定セットアップの概略図。

わたし達がつくった半導体ヘテロ接合素子の試料端に形成されるとされるカイラル端状態の可視化のための測定セットアップを図3に示します。緑色の井桁型に見えるのがホールバーです。その端に紫色で示すのが端を流れる電流です。強磁場中で近接場プローブを試料表面で走査し、その応答を電極1−2間で測定しました。



図4 量子ホールカイラル端状態の磁場中空間マップ図。右端が座標0が試料端(Edge)

です。左は光子エネルギー1.520 eVの光を照射した場合、右は光子エネルギー1.512 eVを照射した場合。


測定の結果得られた空間マップ図を図4に示します。左が光子エネルギー1.520 eVの光を照射した場合です。Chklovskii等の理論で示される黒の縦線に対応するような空間マップ図が世界に先駆けて得られました。右は光子エネルギー1.512 eVを照射した場合で、端の状態を光励起できるぎりぎりの光子エネルギーの光で、端から離れた場所は光励起できない場合です。この場合、電子占有数νに依存して信号が正負を繰り返していることがわかります。確かに端状態のみを観測していることがわかります。

以上の結果はPhys. Rev. Lett. 107, 256803 (2011).、Nano Lett. 15, 2417-2421 (2015)に詳しく書かれています。また、Asia Pacific Physics Newsletter Vol 01, No. 1 p. 13 Research Highlight (DOI: 10.1142/S2251158X12000033)、オプトロニクスオンライン

カナダのAdvances in Engineering社のウェブページ筑波大学のホームページの「注目の研究」紹介されました。

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